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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)5045号 判決

原告

株式会社さくら銀行

右代表者代表取締役

岡田明重

右訴訟代理人弁護士

鈴木順二

被告

岩井金三郎

右訴訟代理人弁護士

杉浦宇子

北村利弥

戸田喬康

榎本修

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金七七七四万三二六五円及びこれに対する昭和五四年六月八日から支払済まで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  前提事実

1  原告(旧商号株式会社太陽神戸銀行)は株式会社大亜建設(以下「大亜建設」という)との間で、昭和四五年八月三一日、左記のとおりの銀行取引約定を締結した(当事者間に争いがない)。

(一) 手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越等の取引をなすこと

(二) 債務不履行の場合、支払うべき金額に対し年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)の損害金を支払うこと

2  被告は原告に対し、前同日、大亜建設の原告に対する1項記載の取引によって現在及び将来負担する一切の債務について、連帯保証した(当事者間に争いがない)。

3  原告は大亜建設に対し、昭和五四年五月三一日、手形貸付けの方法により金二億五一四五万円を弁済期同年六月七日の約定で貸し付けた(甲三、弁論の全趣旨)。

4  大亜建設は、昭和五四年六月二二日、当裁判所に会社更生手続開始の申立をし、当裁判所は同年八月二三日、大亜建設につき会社更生手続開始の決定をし、昭和五七年三月二日、大亜建設に対する会社更生計画の認可決定をし(当事者間に争いがない)、同月三〇日右会社更生計画(以下「本件更生計画」という)認可決定は確定した(乙四)。

5  ところで、右会社更生計画作成時に原告の届出債権について更生担保権確定訴訟(当裁判所昭和五五年(ワ)第七五九号事件、以下「別件訴訟」という)が係属していたことから、原告の債権については、本件更生計画において一般更生債権及び劣後的更生債権として扱う旨記載され、併せて同債権を「未確定更生担保債権」としても記載され、同債権に関する取り扱い、対応について「本更生計画では一般更生債権として計上する。」「更生担保権として確定したときには、本計画中更生担保権につき定めるところにより弁済する。」と記載されている(当事者間に争いがない)。

6  右会社更生手続において確定した原告の債権は金一億五七九四万四六一二円(更生担保権はなく更生債権のみ)であるところ、会社更生計画では右金員の八五パーセントに当たる金一億三四二五万二九五〇円について大亜建設はその支払を免除され、残一五パーセントに当たる金二三六九万一六九二円を会社更生計画により弁済することになった(当事者間に争いがない)。

7  原告は右会社更生手続の中で更生債権の弁済として昭和五八年五月三一日から平成元年五月三一日までに七回に分けて計金二三六八万六〇六八円(右6記載の金二三六九万一六九二円との差額は振込料)の弁済を受け(当事者間に争いがない)、昭和六三年二月五日に成立した別件訴訟における和解により、平成二年二月一六日、大亜建設管財人から金五〇〇〇万円の弁済を受けた(甲七、八、弁論の全趣旨)。

8  大亜建設に関する会社更生手続は平成四年一〇月一九日終結している(乙四)。

9  原告は被告に対し、平成七年二月四日到達の書面で、本訴請求債権の支払催告をし、その六か月以内である同年八月二日、被告共有にかかる不動産に対し仮差押命令の決定を得た(当事者間に争いがない)。

10  本件は、原告が被告に対し、本件連帯保証に基づき、残元金七七七四万三二六五円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五四年六月八日から支払済まで約定の年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金の支払を求めたのに対し、被告は連帯保証債務は時効消滅したとして、これを争った事案である。

二  当事者の主張

1  被告

(一) 会社更生法によると、更生計画に認可決定が確定したときは、その更生債権者表又は更生担保権者表の記載は確定判決と同一の効力を有するとし(同法二四五条一項)、更生計画が認可されると、更生債権者、更生担保権者の権利は実体的にも計画通り変更され(同法二四二条)、この権利変更の効果はその後更生手続が廃止されても存続する(同法二七九条)。

(二) 右の結論は、更生計画認可決定確定時において異議ある更生担保権について更生担保権確定訴訟が係属していても変わるところはなく、未確定更生債権又は担保権について権利確定の可能性を含む弾力性ある計画(同法二一五条)に従って権利の変更(同法二四二条)、免責(同法二四一条)がされるのである。

(三) 本件更生計画において原告の届出債権は前提事実5記載のとおり変更されたから、本件更生計画認可決定のあった昭和五七年三月二日、原告の債権のうち本件更生計画により弁済額として定められた金二三六九万一六九二円については「更生担保権として確定したときには、本計画中更生担保権につき定めるところにより弁済」され、更生担保権として確定しなかったときには一般更生債権として弁済されるが、右弁済額を超える額の債権については支払免除されたものとして効力が生じているのであり、更に本件更生計画認可決定が確定した昭和五七年三月三〇日に原告と大亜建設との間で右支払免除額が確定したものである。

(四) したがって、原・被告間にあっては、本件更生計画において大亜建設が支払免除を得た金一億三四二五万二九五〇円の連帯保証債務の消滅時効に関する時効は、本件更生計画認可決定が確定した昭和五七年三月三〇日、あるいは別件訴訟が和解により終了した昭和六三年二月五日から、その進行を開始しており、いずれにしても、原告の被告に対する平成七年二月四日付支払催告時には既に商法五二一条に定める五年の消滅時効が完成している。

(五) よって、被告は、右消滅時効を援用する。

2  原告

(一) 被告の主張はすべて否認ないし争う。

(二) 本件更生計画では、原告の債権(元本)金一億五七九四万四六一二円についてはとりあえず一般更生債権として計上し、内金二三六九万一六九二円については他の一般更生債権者と同様に分割弁済するが、係属中の別件訴訟において更生担保権が確定したときは、他の更生担保権と同様に元本全部を弁済するというものである。つまり、原告の債権の内、「利息・損害金」については本件更生計画認可決定の確定により免除が確定したといえるが、「元本」についてはその免除額が確定せず、係属中の別件訴訟の結果待ちということである。

(三) 消滅時効の点については、主債務について債務免除された部分はその免除が確定した時から保証債務について消滅時効が進行するが、反対に免除の効果が確定する時までは免除債権についても消滅時効中断の効果は存続しているというべきである。

(四) 本件においては、別件訴訟における訴訟上の和解により大亜建設管財人から金五〇〇〇万円の弁済を受けた平成二年二月一六日に残りの元本すなわち本訴請求債権(金七七七四万三二六五円)の主債務について債務免除の効果が確定したといえるのであるから、本件連帯保証債務について消滅時効の起算点は前同日となる。

三  争点

被告主張の消滅時効の採否

第三  争点に対する判断

一  前提事実に加えて甲六、乙一によると、原告の届け出た更生担保権について管財人から異議が出されたため、原告は管財人を相手に別件訴訟を提訴したこと、そのため、本件更生計画では、原告届出の更生担保権を未確定更生担保権として、届出債権(元本)金一億五七九四万四六一二円について一般更生債権として計上し、内金二三六九万一六九二円について他の一般更生債権者と同様に一般更生債権弁済計画のとおり分割弁済すること、更生担保権として確定したときは、本件更生計画中更生担保権につき定めるところにより、他の更生担保権と同様に元本全部を弁済するという措置が定められたこと、その後別件訴訟は和解により終了したことが認められる。

二  このような異議のある更生担保権は、会社更生法の定める更生担保権確定訴訟手続によって異議を排除するのでなければ、更生担保権として確定することはなく、したがって更生計画に基づく弁済を受けることはできない(会社更生法一四七条)が、更生計画において未確定の更生担保権について、その権利確定の可能性を考慮し適確な措置を定めなければならず(同法二一五条)、また、裁判所はその確定訴訟の結果を更生担保権者表に記載しなければならず(同法一五三条)、その確定訴訟の判決は当事者のみならず更生債権者・更生担保権者及び株主の全員に対してその効力を有する(同法一五四条)とされているし、更生手続が更生計画認可後に終結決定(同法二七二条)、廃止決定(同法二七七条)によって終了した場合、管財人を当事者とする訴訟は会社によって承継されるものと解される。

三  このような会社更生法の定めからすると、原告の届出債権の内、「利息・損害金」については本件更生計画認可決定の確定によりその免除が確定したが、「元本」についてはその免除額が確定せず、係属中の更生担保権確定訴訟の結果を待って確定するというものと解するのが相当である。

四  そして、更生担保権者による更生担保権の届出という更生手続参加をもって時効中断事由とした(同法五条、一二六条)趣旨は、会社更生手続参加が、更生会社の債権者が更生手続においてその債権を主張し、その確定を得たうえ更生計画実施による満足を得るために行うものであり、右債権の確定は届出、債権調査、更生債権者表又は更生担保権者表への記載、更生計画による権利の変更といった一連の手続によって行われ、これらは全体として債権者の権利行使としての実質を有するところにあると解されるところ、本件のように、原告の未確定更生担保権については権利確定訴訟という権利の確定手続を経なければ権利の確定、行使はできないのであるから、原告の未確定更生担保権について前示のような措置を定めた本件更生計画の認可決定により、右未確定更生担保権における主たる債務が免除されたものと認めることはできないと解するのが相当である。したがって、本件は、主たる債務について債務免除を定めた更生計画の認可決定があった場合には、更生手続参加により中断していた保証債務の消滅時効は、右認可決定が確定した時から更に進行を開始するとの判例(最高裁判所昭和五三年一一月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻八号一五五一頁)をそのまま適用することはできない。

五  ところで、別件訴訟は、昭和六三年二月五日、別紙和解条項のとおりの訴訟上の和解の成立により終了しているところ(甲七)、右和解条項には原告の未確定更生担保権の帰趨についての明確な条項がないけれども、管財人から原告に支払われるべき和解金額は将来の売買代金額を基準とする不確定な金額であることからして、更生担保権としての確定金額はないものとして、当事者双方の互譲により右和解がなされたものと解するのが合理的である。

そうすると、右和解という別件訴訟の終了により、本件更生計画のとおり原告届出の更生担保権における主たる債務の免除が確定したものというべきである。

六  以上の検討によると、中断していた被告の原告に対する本件連帯保証債務の消滅時効は、右和解日である昭和六三年二月五日から更に進行を開始するものというべく、商事債務の時効期間(五年)である平成五年二月五日の経過をもって本件連帯保証債務は時効消滅したものと認められる。この点、前示和解金額を受領するまで、主たる債務の免除は確定せず、本件連帯保証債務の消滅時効も進行を開始しないとする原告の主張は採用の限りではない。

七  以上の次第で、原告の請求は理由がないからこれを棄却する。

(裁判官黒岩巳敏)

別紙和解条項〈省略〉

別紙土地目録(一)・(二)〈省略〉

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